プロフィール

お名前:思沁夫(スチンフ)さん
出身地:中国・内モンゴル自治区
現住所:宍粟市山崎町
職業:一般社団法人「北の風・南の雲」、大学教授
年代:60代
移住年月:2020年

モンゴルから宍粟市へ

この記事では、兵庫県宍粟市で新しい人生をスタートした先輩移住者の貴重な体験談をご紹介します。

今回お話を伺ったのは、モンゴルから宍粟市へ移住された大学教授の思沁夫(スチンフ)さんです。宍粟市に移住した経緯や、現在の暮らし、そしてその魅力についてお話しいただきました。

インタビューの様子はYouTubeにもアップされています。

自己紹介

私はモンゴル人で、思沁夫(スチンフ)と申します。
現在は「北の風 南の雲」という一般社団法人を設立し、モンゴルや中国の雲南省、その他の地域で地域支援活動を行っています。同時に、大学教員としての活動も行っており、大阪大学をはじめとするいくつかの大学で授業や研究をしています。

遊牧生活とは?

スさんはモンゴルご出身で、さらにモンゴルの中でも、いわゆる遊牧民のご出身とのことですが、遊牧民とは、具体的にどのような生活を送られる方々なのでしょうか?

モンゴル人の中には、日本人とあまり変わらない都市で暮らしている人もいれば、家畜「牛、馬、羊、ヤギなど」を放牧し、家畜から乳や肉を得て生活している人たちもいます。

草原で家畜を育てるため、草がなくなると移動を繰り返しながら生活するのが特徴です。こうした生活スタイルを持つ人々を「遊牧民」と呼びます。
私自身も12歳くらいまでは、まさにそうした遊牧民としての生活をしていました。

聞いていると、遊牧民の生活スタイルというのは、本当に自給自足に近いものがありますね。

そうですね。基本的には自給自足の生活になります。
ミルクからチーズやクリームを作ったり、肉をさまざまな形で調理して食べたりします。また、家畜の毛皮をなめして冬服を作ったり、羊毛を使ってゲルという住居を作ったりもします。ゲルは簡単に言うと日本でいうテントのようなもので、移動がしやすいように工夫されています。どれも自分たちで作ったものです。

ただし、完全にすべてを自分で生産するわけではありません。
例えば、服や生活の道具、米や小麦粉といった食料の一部は街から購入する必要があります。

宍粟市の暮らしで良いところ

宍粟市の良いと感じることはありますか?

私はもともと遊牧民の出身で、人とあまり接触しない生活をしていました。
その経験からか、梅田や東京駅のような人がたくさんいる場所は少し苦手です。

静かな環境が好きで、人と頻繁に出会わない生活を「寂しい」と思う人もいるかもしれませんが、私は静かな環境で物事を考えたり、文章を書いたりするのがとても好きなんです。

宍粟市に移住したきっかけ

宍粟市に移住したきっかけはなんですか?

私が宍粟(しそう)を住まいに選んだのは、2013年ごろから「環境問題への回廊」という授業を作り、その授業の一環で日本各地を調査し、問題点を報告書にまとめて発表するという活動を行っていました。

その中で、現在宍粟市千種町鷹巣にいらっしゃる先生と知り合い、その先生のお誘いで、村や森、宍粟市の取り組み、例えば新エネルギー導入や地域課題について地域の人々と考え、学ぶ機会をいただきました。

その後、考えたことを発表する際には宍粟に関連する方々を招いたりすることもあり、つながりが深まっていきました。

私が宍粟に移住した理由は、まず第一に、授業から発展して設立した一般社団法人をどこに置くかという点でした。

この法人を大阪には置きたくなく、地方で地域に役立つ活動をしたいという思いがあり、最終的に宍粟を選びました。

第二の理由として、個人的にも大阪や東京より地方での生活が好きだったということもあります。

結果的に、宍粟に移住してよかったと思っています。

一般社団法人「北の風 南の雲」とは?

一般社団法人「北の風 南の雲」とは一体どのような団体なんでしょうか?

「北の風や南の雲」は、阪大で行われた2つの授業「海外フィールドスタディ」と「環境問題への回廊」を基に設立された一般社団法人です。

これらの授業では、学生が国内外で現地調査を行い、提案をまとめ、地域や企業に報告する活動を実施しました。地域に貢献し信頼関係を築いてきましたが、授業終了後に活動が途切れることに寂しさを感じたため、学生たちの成果を継続・発展させる仕組みとして法人を設立しました。

具体的な活動内容

現在宍粟市では具体的にどのような活動に取り組まれているのですか?

私たちはこれまで「フィールドスタディ」という活動を行ってきました。
現在、フィールドスタディ自体は終了し、その代わりに、宍粟市内では子どもたちの教育や「あるもの探し」に注力したり、企業向けの塾を開いたりと、活動の形を変えています。環境問題に関する取り組みや授業としてのフィールドスタディは一段落しています。

その一方で、宍粟市の子どもたちをモンゴルや中国のウンナン(雲南省)へ派遣するプログラムが行われています。
これは、フィールドスタディの手法を応用したものです。

小学校3年生から高校卒業までの間、一人一つのテーマを選び、それについて考察を深め、最終的に発表を行うという内容です。

このプログラムでは、宍粟や外の世界を学び、自分自身や地域を客観的に見る力を養うことを目指し、社会での実践力を身につけてほしいという願いがあります。

地方には仕事がない?

実は「地方には仕事がない」という声をよく耳にします。それが移住の大きなハードルになっているようなんです。この点について、スさんはどのようにお考えですか?

確かに、「地方には仕事がない」というのは事実だと思います。
いきなり移住して、その場で就職しようと思うと難しいと感じるのも理解できます。

ただ、「仕事がないなら作ればいい」というのが私の考えです。
もちろん、いきなり何かを始めるのは難しいかもしれません。

だからこそ、地域の先輩やサポートネットワークを活用することが重要です。

例えば、「プラチナタウン」という宍粟市の有志企業が集まったコミュニティで地域に役立つような仕事を選んでいくと支援を得られやすいです。

農業や自然を活用した仕事、あるいはネット上の仕事など、様々な可能性があります。

また、仕事の拠点を一つの場所に絞らなくてもいいと思います。

例えば、宍粟市に住みながら他の地域で仕事をする、あるいはネットを通じて全国的に仕事を行うことも選択肢の一つです。臨機応変に対応すれば、仕事は作りやすくなると思います。

日本人は慎重でリスクを恐れる傾向がありますが、地方にはたくさんの可能性があります。一生懸命やれば、どんな仕事でも生活は成り立つはずです。その根拠として、私は2つのポイントを挙げたいと思います。

生活コストの削減
 地方は生活費が都市部よりも大幅に低いです。例えば、野菜やお米、自給自足のための猟などを活用すれば、食費は非常に抑えられます。大阪で暮らす場合の半分以下のコストで生活できます。

地域のサポート
 地方では、移住者に対して地域全体でサポートする風土があります。私自身、農業の経験が全くありませんでしたが、隣の人が畑を耕すのを手伝ってくれるなど、多くの支援を受けています。

本気で地域で生活しようと頑張る人には、皆が協力的です。

宍粟市内で仕事を探さなければいけない、という固定観念を持つ必要はないと思いました。宍粟市に住みながら、近隣の町で仕事をするのも一つの選択肢なのかもしれませんね。

日本に移住したきっかけ

そもそもなぜ日本には移住されたのでしょうか?

背景にはモンゴルの社会主義時代の影響と、1980年代に始まった「日中友好」による文化交流がありました。

当時、モンゴルでは外部の文化に触れる機会が限られていましたが、日本の昭和時代の歌や映画が紹介され、その魅力に引き込まれました。

特に、高倉健さんの大ファンになり、彼の映画を日本語で観ることへの憧れが強くなりました。その流れで、日本の歌、文学、歴史、哲学、思想に興味を抱き、中国語やモンゴル語に翻訳された日本の作品を通じて、日本への憧れを深めました。

そして、1990年代半ば、日本へ行く決意をしました。

なるほど、日本文化への憧れが日本に来る大きな理由だったのですね。

今後の夢や目標

今後の夢や目標はありますか?

少し欲張りかもしれませんが、私には2つの大きな目標があります。

1つ目は、子どもたちを高校卒業までサポートしていきたいということです。その中で、彼らがたくましく成長し、宍粟をより良くする力を持ちながら、外の世界から宍粟を見る視点を備えた人間になってほしいという願いがあります。それが私の一つの希望でもあります。

2つ目は、地方における知識の重要性を高めたいということです。私は7〜8年前に「知の地方化」について論文を書きました。

「知」とは知識のことですが、それが地方に根付いていないと、どんなにプロジェクトを進めても持続可能性が難しいと感じています。

現在の時代は知識の更新が非常に早く、22歳まで勉強してから仕事を始めるという一方向の流れではなく、働きながら学び直したり、学びながら働くといった循環型の学び方が求められています。私は、そうした学びの環境を宍粟で作りたいと思っています。

具体的には、本の読み方や活かし方、さらには自分を成長させるような本との出会い方を教える場を提供したいと考えています。

本を通じて、発想力やコミュニケーション能力、特定のスキルを高める方法を学ぶことは、仕事をしながらでは難しいかもしれません。だからこそ、多くの学びの場を提供し、誰もが成長できるチャンスを持てる環境を目指しています。

関連情報

一般社団法人 北の風 南の雲
HP:https://www.future-asia.or.jp/