
お名前:安井唯善さん
出身地:宍粟→群馬・東京
現住所:宍粟市山崎町
職業:株式会社 安井書店
年代:60代
移住年月:1988年
目次
宍粟市へUターン移住
この記事では、兵庫県宍粟市で新たな人生を歩み始めた、先輩移住者の貴重な体験談をご紹介します。
今回ご登場いただくのは、一度は故郷を離れ、群馬県・東京都での生活を経たのち、120年続く「安井書店」を継ぐためにUターン移住された安井唯善(やすい・ただよし)さん。
都会での暮らしから、自然豊かな地元・宍粟市での暮らしへと切り替えたその背景には、どのような想いや決断があったのでしょうか。
インタビューの様子は、YouTubeでも公開中です。ぜひあわせてご覧ください。

安井書店とは?
安井さん、本日はよろしくお願いします。まず、「安井書店」ってどんな本屋さんなんですか?
うちは明治38年創業で、最初は「安永堂(あんえいどう)」という屋号で文具の問屋をしていたんです。
祖父の代に不況で一度商売を畳んだのですが、その後、再び立ち上げて本格的に書店としてスタートしました。


今の「安井書店」になるまでに、そんな経緯があったんですね。
ええ。昭和28年には法人化して「株式会社安井商店」として再出発しました。
書籍だけでなく、学校教材や文房具を扱い、セルCDなどは宍粟市では唯一です。

「安井書店の息子」ではなく、自分自身として生きるために
安井さんは一度、宍粟市を離れてらっしゃるんですよね?
はい。地元の高校を卒業して、群馬県の高崎経済大学に進学しました。
実は神戸や大阪の大学にも受かっていたのですが、親がしょっちゅう出張で来そうで…「群馬なら来ないだろう」と思って(笑)
地元でのつながりが強いぶん、距離を取ってみたくなったんですね。
そうですね。宍粟では「安井書店の息子」として見られることが多くて、自分という存在を試したい気持ちがありました。
教科書会社での仕事と、Uターンの決意
大学卒業後はどんなお仕事を?
東京の教科書出版社に就職しました。編集でも営業でもなく、印刷や資材調達、スケジュール管理といった「制作の裏方」を担当していました。
全国の教科書採択が4年に1度行われるのですが、その準備が大変で…営業部門と一体になって動いていました。
ある時、関西支社の方に「安井くんを営業で欲しい」と言われて、関西に戻ることになったんです。

そこから、Uターンする流れになったのですか?
父が体調を崩して、目が見えなくなりかけていたんです。
「そろそろ帰ってきてくれへんか」と。ちょうど28歳の時でした。
僕自身も長男として、いずれは継ぐという意識はありましたし、いろいろ経験させてもらったうえで納得して戻ってきました。
地元に戻って得た「暮らしの豊かさ」
Uターンしてよかったなと感じるのは、どんなところですか?
子育ての面でいうと、祖父母が近くにいる環境で、安心して子どもを育てられたのは本当にありがたかった。
保育園や学校でも、地域の人がすごく気にかけてくれて、親としても心強かったです。
地域で子どもを育てるという安心感、いいですね。
PTA活動や部活動の保護者会も全部やりました。
下の子がソフトボール部だったんですけど、3年間、保護者会長も務めました。
練習や試合の送迎も毎週のように。今ではいい思い出です。
「地域と共に育てる」という体験は、都市ではなかなかできないですよね。
今後の夢や目標
これから、安井さんご自身が目指していることや、今後の展望についてもお聞きしたいです。
本屋が町にないというのは、やっぱり町としても大きな損失だと思うんです。だからこそ、本屋をなんとか残したい、守っていきたいという想いはずっとあります。
今は本屋を残すために、いろんな商材も取り扱うようにしています。ネットを通じて、田舎でも一歩踏み出せば、全国に向けて発信できる時代ですし、スタッフの知恵を活かして、少しでも付加価値をつけていきたいと考えています。

具体的には、どのような商品展開をされているんですか?
もともと本屋なので、やはり「本」と「地域の玩具」、それから学校関係の取引先とのつながりもあります。
その中で紹介していただいた商品を組み合わせて、例えばラッピングして贈り物や内祝い、お祝いごとなどに使ってもらえるような商品開発を進めています。


その組み合わせに少し深みを持たせて、見てくれる人に「いいな」と思ってもらえたら、本屋の新しい価値にもつながると思います。
それと最終的には、事業の規模を少しでも大きくして、1人でも2人でも雇用の機会を生み出せたらと思っています。
この地域は働き口が少なくて、人口も減ってきています。そんな中で、少しでも地域に貢献できたらという想いがありますね。
地方移住を考える人に伝えたいこと
では最後に、地方移住やUターンを考えている方に向けて、メッセージをお願いします。
宍粟は「何もない」と言われがちですけど、実はすごく豊かなんです。
自然も人もあたたかくて、子育ても働き方も、想像以上に自由がある。
地元にいると、その良さに気づかないことも多いけど、外から来た人の方が気づいてくれる。
今はネットがあるから、都会の仕事を田舎でやることも可能です。そういう柔軟な働き方が、これからもっと当たり前になればいいなと思っています。
まとめ|本屋と地域が共に生きる未来へ
創業から120年、家業を受け継ぎながらも、時代に合わせて柔軟に変化し続けてきた「安井書店」。
Uターンという選択から、地域との関わり、子育て、そして未来の働き方まで──安井さんの生き方は、地方で暮らすことを考える人たちにとって多くの示唆を与えてくれます。
「本屋がある街に、文化が宿る」
そんな思いを胸に、これからも地域の暮らしに寄り添う存在であり続けてほしいと思います。
関連情報
安井書店Instagram:yasui.shoten
ほんのきもち ゆいぜん:yuizen.book.yasui